苦悩するアパレル

電鉄系の駅ビルに数店舗を出店する婦人服小売店A社に昨年末12月28日に売掛金仮差押えが入った。この企業は、一般にいう第二会社(負債を回避するために設立された新会社)、もともと、百貨店のオリジナルをOEM生産し、10億円近くの売り上げがあったが、単品(ダウン製品)のウエイトが極端に高かったため、トレンド変化とともに、売り上げが急減、保証協会付融資を2億円近く抱えていたが、支払い不能になり、保証協会に代位弁済、会社は休眠のまま、別会社で親族に小売店を経営させ、再起を図っている最中だった。結果的に買掛金(仕入れ代金)の支払いが滞り、感情的になった中小メーカーが、極端な手段で「追い込み」をかけた。

 この日程での仮差押えは、対応のしようがない。裁判所も休み、弁護士事務所も休み、明らかに「つぶす」ことを意図した法的措置だ。年明け早々、顧問弁護士が交渉に当たったが、電鉄系駅ビルは、契約に基づき、店舗の撤去を求めてきた。休眠していた第一会社、第二会社とも、破産、経営者一族は、そろって自己破産した。

「業界再編の陰で」

 財務の健全さを誇ったアパレルメーカーC社は、他のアパレルメーカーとの経営統合により、新たにホールディングスとして、事業再編を図った。

 その背景で桐生にある縫製工場B社は、致命的な影響を受けた。アパレルメーカーC社との取引条件は、担当者間の信頼関係に基づき、適度な余裕を持った「甘い」が、安定した関係だった。業界再編によって、この構造が大胆に変化した。ホールディングスの新たな生産担当者は、量販志向一辺倒、海外(東南アジア)と同程度の価格を求めた。賃金格差が未だに存在する国内縫製工場は、海外との価格競争では、全く歯が立たない。結果的に縫製工賃の安さに対応できず、赤字体質となる。仕事の量をとるか、利益をとるか、従業員の給与を支払うためには、工場を回さなければならない。借入金で営業赤字をしのぎながら、何年か、国内生産を維持したが、赤字は膨らむ一方、最後は、消費者金融に頼って、販売管理費を支払うようになり、加速度的に財務状況は悪化した。現在は、大切に守ってきた国内縫製担当人材をすべて、解雇。規模を極端に縮小し、細々と営業を継続している。1億円を超える借入金は、減額交渉を繰り返したが、結果的に法的措置をとられ、いつ売掛金が差し押さえられても不思議ではない状況だ。

 アパレル関連中小零細企業の状況は、極端に悪い。売上高がそれなりの企業でも、中身(財務諸表)を見ると、いつ破産してもいい状況にある。金融機関の「返済猶予」によって、何とかしのいでいる企業がきわめて多く存在する。

 事業再生の新たなスキームである「特定調停」は、理由はどうあれ、返済不能になった金融債務だけを比較的簡便な手続きで、圧縮できる新たな手法だ。

 破産したA社も、海外との競合で苦戦するB縫製工場も、早い時期に経営改善計画を作成し、金融債務の圧縮ができれば、ここまで追いつめられることはなかった。小売業、縫製工場、アパレルメーカーとも比較的少ない設備投資で営業できるため、本来は、柔軟な企業規模の変更ができるはずだ。

 A社もB縫製工場も、事業の見直しのタイミングが遅れた。少なくともPL上の黒字体質が維持できる段階で「特定調停」スキームに着手できれば、最悪の事態は避けられた。

 

「事業再生策としての特定調停」

きっかわ法律事務所 弁護士 檜山聡

中小企業金融円滑化法が、2013年3月をもって終了したことを受け、日本弁護士連合会は、最高裁判所中小企業庁との協議の上で、特定調停手続を活用した中小企業の事業再生の手法、いわゆる特定調停スキームを策定し、同年12月から運用が開始されている。特定調停手続は、主に、個人の債務整理の手段として利用されてきていたが、これまで、法人の事業再生の手法として利用されることは少なかった。この特定調停を中小企業の事業再生の手法として活用しようとしたのが、特定調停スキームである。

特定調停は、民事調停の特例であり、裁判所で行う話し合いの手続の1つである。したがって、裁判所に申立てをする必要があるが、破産や民事再生のように比較的大きな金額の予納金を納付する必要はなく、経済的な負担は少ない。また、破産や民事再生では、全ての債権者を平等に扱う必要があり、取引債権者も全て手続に組み込まれ、結果として取引先にも負担をかけ、風評被害が生じることにもなるが、特定調停は、金融機関のみを相手にすることができ、また、裁判所での非公開の手続なので、風評被害が生じるおそれも少ない。さらに、特定調停スキームでは、法人と同時に、金融債務の連帯保証をしている経営者個人も、いわゆる経営者保証ガイドライン(一定の条件の下、一定の資産を残して保証債務を免除することが認められている。)に基づく連帯保証債務の整理をすることが可能である。

ただ、特定調停は、あくまでも話し合いを基本なので、申立て前に、金融機関と協議を重ねることが重要で、事前に金融機関と調整の上で、弁護士や税理士、中小企業診断士等の専門家の協力も得ながら、経営改善計画案、弁済計画案を策定することが前提となる。また、破産などの法的整理しか選択肢がなくなる前に早期に着手することも重要である。

以上のとおり、特例調停スキームは、中小企業にとっては事業再生の方法としてメリットがあると考えられ、今後、幅広く活用されることが期待されている。